単位系の数学的構造 (2)

タグ ノート 電磁気学 単位系

単位系の数学的構造 (2)#

単位系は長い混乱の歴史の中にある。 既存の単位系の優劣を主観的に論じるもの、思いつきの新たな単位系を提案するものなど、まさに宗教戦争、百家争鳴の様相である。

このような混乱の原因として、単位系に関する一般理論が確立されていないことが挙げられる。 ここでは単位系の数学的な構造を明らかにするとともに、従来見過ごされてきた単位系相互の関係性について論ずる。 単位系はその基本単位の数で分類される程度で、それぞれが独立したものと捉えられている。

ここで明らかにするのは、任意の2つの単位系 U, V は (1) UからVへ変換可能, (2) VからUへ変換可能, (3) 双方向に変換可能, (4) どちらにも変換不可能、のいずれかの関係にあるという事実である。

変換可能性(1)は単位系 U における量や式を単位系 V のそれらに系統的に変換できることをいう。  そのためには、Uの基本単位の数がVのそれよりも大きいか等しいことが必要であるが、十分ではない。 電磁単位系の MKSA から CGS emu、CGS esu には変換可能であるが、 CGS gauss へは変換不可能、CGS emu と CGS esu は相互に変換不可能である。 力学単位系の MKS と CGS は双方向に変換可能である。変換可能という関係性によって、 単位系の集まりは擬順序集合 (preorderd set, preset) とみなせる。 この基本的事実を認識せずに、単位系の優劣を論じても、科学にはならない。 単位系の変換においても、変換可能性は最も重要な前提である。

単位系に関連する事項として量の次元があるが、これも混乱した状況にある。 「次元は単位系に依存しない普遍的な属性である」と「次元は単位系が変われば変化する」 のような矛盾した説明が共存している。 この矛盾は「次元は相互変換可能な単位系のクラス(同値類)の中で普遍であるが、 別のクラスへ移ると変化する」という形で解消される。 相互変換可能な単位系のクラスたち(Equivalent Unit Systems, EUS) は 部分順序集合 (partially ordered set, poset) を作っている。

長い論文であるが、単位系、次元、量を論じる人にはぜひ読んでいただきたい。

[1] Masao Kitano.,“Mathematical Structure of Unit Systems”, J. Math. Phys. Vol., 54, No. 5, pp. 052901-1-052901-17, 2013. [DOI](DOI: 10.1063/1.4802876)