E-B対応派はD, Hがお嫌い?#
電磁気学の有名な論争に E-H対応かE-B対応かをめぐるものがある. 最近ではE-B対応が多数派を占めるようになってきた. 磁気的な力を磁極間ではなく,電流間の相互作用と捉えるという意味で正しい方向に向かっているといえる.
しかし,並行してちょっと困ったことが起きている.E, B を大切に扱うあまり,D, H を排除しようとする傾向である. D や H は補助的な場であり,特に真空中においてが意味のない量なので使用するべきでないという主張である. たとえば,磁場について,
「真空中では,透磁率 μ_0 は定数で,磁束密度 B と磁場の強さ H は比例しているので,2つの場の量があるのは無駄である. B はベクトルポテンシャル Aの空間微分という点で,より基本的であるので, H は補助的な場の量であると見なすべきである. したがって,アンペールの法則は curl H = J と書くより,curl B = μ_0 J と書くのが望ましい.」
変数を消去して冗長さをなくすことは, 一見合理的に思えるが,果たしてそうであろうか.以下の力学に関する記述と比較してもらいたい;
「粒子や剛体の場合,質量 m は一定で,速度 v と運動量 p は比例しているので, 2つの変数があるのは無駄である. v は位置 x の時間微分という点で,より基本的であるので, p は補助的な変数と見なすべきである. したがって,運動方程式は dp/dt = F と書くのではなく m dv/dt = F と書くのが望ましい.」
運動量はさらに一般化されうる量であり, 速度とは異なった意義をもつことはよく理解されている. 位置と共役関係にある主要な物理量であり,間違っても補助的な量と断ずる人はいないであろう. しかし,電磁気においては上記のような不可思議な議論がまかり通っているのである.
問題は,E-BかE-Hの背反的選択にあるのではなく,E, B, D, H それぞれの役割と関係性(相補性)を理解することが重要なのである. D, H を補助場とする考えが蔓延する理由の一つとして,ガウス単位系の影響が挙げられる. ガウス単位系ではEとD, BとHはそれぞれ同じ次元を持つ量であり,特に真空中では値が等しくなってしまう. そのため,D, H の意味が必ずしもよく理解されず,分からないものはあまり使わないでおこうということになる. 高踏的反論として,「相対論で4元ポテンシャルを微分したものが E, B に相当するので, これらを優先させるべき」と いうものがあるが,「D, H を微分すると4元電流密度になる」ということを見逃している. (相対論的式は大抵ガウス単位系で書かれるので,よく見えない部分ではある.)