半無限ソレノイド間の力と磁荷に対するクーロンの法則#
永久磁石は多数の微小な磁気モーメントが整列した状態である. 磁気モーメントは電気双極子モーメントとのアナロジを利用して逆符号の磁荷(磁気単極)が隣接したものとして表されることが多い. しかし, 実際には微小な環状電流で表す方がより適切である.
前者の考えに基づいて, 永久磁石の磁気モーメントを粗視化すると端面に磁荷が表れる. これが磁極と呼ばれるものである. 一方, 後者のモデルを採用すると, 端面ではなく側面に電流が周回している状態が得られる. 磁極に相当する端面には電流は流れておらず, 磁場への寄与はない. 奇異に思えるかも知れないが, 等価な空心の電磁石の電流分布と同じものになる.
後者の考えは, 等価電磁石との対応のよさや, 磁荷や磁極といった実際に存在しないものを導入する必要がないという点で合理的であるが, 一般に用いられることは少ない. テキスト (新版マクスウェル方程式) でも詳しく述べたように, 磁荷や磁極の概念をできるだけ用いないことが望ましい. (テキストではメッセージを強調するため「磁極 — 廃棄すべき概念」という過激すぎるタイトルをつけた.)
そこでよく出る質問は,では, 永久磁石の間の力をどのように説明するのかというものである. すなわち磁極を構成する磁荷間に働く力の総和として求めていた磁石間の力を, 一体どのように計算すればよいのかという質問である. 答えは「巨視的な電流間の力を計算すればよい」という単純なものなのだが, 電流の流れている場所と磁極の場所が全く異なるので、 違和感をもって受け止められる場合が多い. ここでは, 問題を単純化して, 2つの磁荷の間に働く力(磁荷間のクーロンの法則)を電流の間の力として求めよう.