消え行くガウス単位系#
有名な Purcell の電磁気の教科書の第3版が最近出版された. 驚いたことに単位系がすべてSIに改められている. もとは,バークレー物理学教程の中の一冊として1960年代に刊行されたもので,Jackson の教科書と双璧をなす重厚な名著である. いずれの教科書も当初CGSガウス単位系で書かれたが,それは時代的,地理的な背景を考えると自然なことであった. その後,SIが一般に普及するにつれ,居心地が悪くなった2人の著者が, 必ずガウス単位系を使い続けるという盟約を交わしたのは有名な話である.
しかし,Purcellが亡くなった後,Jackson は自らの教科書の前半をSI化してしまった. 後半をガウス単位系のままにした理由は想像できる. 著者を失ったPurcellの教科書をSI化したのは,共著者として新たに加わったMorinという人である. まえがきによれば,SI化しないと絶版のまま埋もれてしまうという危機感から改訂が行われたとのことである.
SIに向かう時代の流れを,悪貨が良貨を駆逐する好例のように喧伝するむきもあるが,それは全く誤りである. CGS電磁単位系とCGS静電単位系を無理矢理融合させて作られたガウス単位系は過渡的なものであり, 今になって,電磁気学の誕生以来の臍帯がようやく脱落しようとしているというのが正しい見方である.
凡そ,ガウス単位系の方がよいと主張するのは電磁気学の構造を理解していないと告白しているようなものである. つまり,SIはさっぱり理解できないが,最初に習ったガウスの方が少しは分かるような気がするというのが正直なところなのだろう. こういう人に限って,物理量の次元には無頓着で, すぐに自然単位系に移るといって \(\hbar=1\), \(c=1\) と置いてしまったり,\(\mu_0=4\pi\times10^{-7}\) という次元が合わない式を平気で書く. 単位系の構成原理や各単位系を理解した上で論理的に比較することを経ずに, 印象で判断するのは科学的な態度とはいえない.
学び直しを拒否してノスタルジーに浸っている人を今さら説得するつもりはないが,くれぐれも若い人は, 「ガウス単位系というよりよい単位系が存在する」という虚言に惑わされないようにお願いしたい.